近年、保育や教育の現場では「主体性を育てること」がとても重要視されています。「主体性」とは、簡単に言えば、「自分の意思で考え、自分で動く力」です。
では、この主体性はどうすれば育てられるのでしょうか? 保育者としてできることは、どんなことでしょうか?
そのヒントの一つが、子どもが「遊び」を自分で企画する体験を取り入れることです。遊びの中で主体性を引き出し、それをさらに広げていく関わりが、今の保育には求められています。
主体性とは何か?
まず、「主体性」という言葉を改めて確認してみましょう。
文部科学省や厚生労働省が出している保育指針や教育要領では、「主体的な活動」とは、子ども自身が目的意識を持ち、意志をもって取り組む活動のことを指します。つまり、「やらされる」のではなく、「自分からやってみたい」と感じ、「どうしたらいいかな?」と考えながら動いていくことです。
このような力は、単に知識を詰め込むだけでは身につきません。日々の経験の中で、「自分で決める」「失敗しても、もう一度考える」「相手の気持ちを考える」といったプロセスを積み重ねることで育っていくものです。
「遊びの企画」が主体性を引き出す
子どもの主体性を引き出す有効な方法の一つが、「遊びの企画を任せてみる」ことです。
たとえばこんな場面を想像してみてください。
- 「明日は雨かもしれないけど、室内でどんな遊びができるかな?」
- 「今度、お誕生日会をするけど、どんな飾り付けがあったら嬉しい?」
- 「みんなでお店屋さんごっこをするなら、どんなお店を出してみたい?」
子どもたち自身が「考え、決めて、動く」プロセスは、まさに主体性のトレーニングになります。
大人がすべてを決めて「今日はこれをやるよ」と与えるだけでは、子どもは受け身の姿勢になってしまいがちです。しかし、自分でアイディアを出してみる経験があると、次第に「こうしたい」「こうしたらもっと面白くなる」と考えるようになります。
家庭でもできる!子どもが主体的に関わる場面の例
主体性を育てる取り組みは、保育園・幼稚園だけでなく、家庭でも簡単にできます。
たとえば:
- 家族の誕生日に何をしたいかを考える
→ 飾りやプレゼント、メニューのアイデアを出してもらいましょう。 - 今日の夕飯に何を食べたいか考える
→ 買い物や料理のお手伝いにつなげると、さらに学びが深まります。 - 休日にどこにお出かけしたいか決める
→ その場所について調べたり、準備を手伝ったりすることで、「自分が決めたことに責任を持つ」感覚が育ちます。 - 友だちと何をして遊ぶか提案してみる
→ 他者とのやりとりの中で、協調性やリーダーシップも自然と育まれていきます。
このように、「自分で考えて決める」ことを、日常の中で少しずつ取り入れることが大切です。
保育者のサポートが重要!“任せ方”の工夫
とはいえ、いきなりすべてを子どもに任せるのは難しいですよね。特に年齢の低い子どもや、まだ自信のない子どもには、段階的なサポートが必要です。
最初のうちは、「一緒に考える」「選択肢を用意してあげる」「簡単なことから任せる」といったアプローチが効果的です。
例:
- 「この遊びとこの遊び、どっちをしたい?」
- 「この材料で、どんなものが作れそうかな?」
- 「○○ちゃんが考えたアイデア、すごく面白そうだね。もっと教えて!」
こうして自分の考えが認められ、実現される体験を重ねることで、「もっとやってみたい!」という意欲や自信が育っていきます。
慣れてきたら、遊び全体を任せてみたり、グループでの企画活動に挑戦してみたりするのも良いでしょう。
主体性は“人との関わり”の中で育つ
主体性というと「自分で考える力」に目が行きがちですが、実は周りの人と関わる力とも深くつながっています。
たとえば、遊びの企画を通して、友だちに声をかけたり、意見を聞いたりする場面では、自然と「相手の思いを受け止める力」や「伝える力」「協力する力」も育まれます。
「自分の意見を持ちながらも、相手の意見にも耳を傾ける」ことは、これからの社会で必要とされる大切なスキルの一つです。
保育の中で、子ども同士のやりとりや気持ちのすれ違いがあった時にも、頭ごなしに指導するのではなく、「どうしたかったの?」「どう伝えたらよかったかな?」と問いかけを通して、子ども自身に考えさせてみましょう。
「人気者」になる力とは?
主体性が育まれてくると、子どもは次第に「みんなに認められる存在」になっていきます。
たとえば、自分から面白い遊びを提案できる子、友だちを上手に巻き込める子は、自然と注目され、「○○ちゃん、すごいね!」と憧れられる存在になります。
これは単なる「目立ちたがり」ではなく、主体的に考え、他者と協働する力の成果です。
子どもが「自分の思いを表現できる場」「他者と共に何かを成し遂げる体験」を通して、自分に自信を持ち、さらに次の挑戦につなげていけるような関わりを大切にしたいものです。
おわりに ― 小さな“任せる”が未来をつくる
子どもの主体性は、一朝一夕で身につくものではありません。しかし、日々の遊びや生活の中で「少しだけ任せてみる」「考えるきっかけを与える」ことを積み重ねていけば、確実に育っていきます。
私たち保育者は、「やらせる人」ではなく、「応援する人」として、子どもの中にある力を信じ、引き出す役割を担っています。
一人ひとりの「やってみたい」という小さな芽を見逃さず、育て、広げていく。
そんな保育のあり方が、これからの子どもたちに必要な「生きる力」を育んでいくのです。
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